マキちゃん

かわいそうなマキちゃんがいました

いつも大きいだけの人に怯えていました

マキちゃんは声をとられて

いつまでも窮屈な靴を履かせられて

目から水分を根こそぎ持っていかれ やがてからからに

大きいだけの人を攻撃する人達が

マキちゃんのことも指してひそひそやりました

マキちゃんはそれにムカついて 汚い靴で砂を蹴っ飛ばしました

すると攻撃する人達は声を大きくし いやね と言うのです

マキちゃんのムカムカは大きくなります

大きいだけの人はよくマキちゃんをぶちます

わたしは大きいのだから言うことを聞け

でないと出ていけ それか死んじまえ

マキちゃんは悲しみなんて ママのお腹の中に置いてきているので ごめんなさいと言いながら心で笑います

ばっかみたいだなあ 必死だなあ

なんどかほんとに死んでみようかと思いましたが 怖いのでやめました

やがてマキちゃんが声を取り戻して どもりながら話せるようになった時

小さすぎる靴を砂場に埋めて お墓を作った時

からからの目に 水とわずかな光が入った時

ママのお腹に置いてきた悲しみが どん と押し寄せました

おかしいなあ やっと自由になったのに

マキちゃんは思いました

それでもマキちゃんは暮らしていかなければならず

場所が変わっても攻撃してくる人達に相変わらずムカついて

今日も冷蔵庫の中のビールを次々と空けるのです

飲み過ぎたマキちゃんは 寝っ転がって布団にくるまりました

そしてよせばいいのに 大きいだけの人のことを思い出します

どうして大切にしてくれなかったのだろうか

なぜ死んじまえなんて言ったんだろうか

悲しみと怒りがどんどんふくれあがります

マキちゃんはやっぱりムカついてきて舌打ちをしました

うざったいなあ やな気持ち

マキちゃんはすくっと起き上がって

部屋に漂っている悲しみと怒りを乱暴に集めました

腹立つから こんなもの全部食べてやろう

酔っ払っているマキちゃんは食べました

吐きそうになりながら食べました

涙を流しながら食べました

この世の不幸を全部詰め込んだ味がしました

マキちゃんは全部食べて ひどい気分で床に倒れました

あまりに苦しいので はいつくばりながら薬をたくさん飲み

お腹が ドカンドカン と痛むのを我慢して 目を閉じました

長いことお腹の痛みを我慢しながら 

はあ もうこんなことはこりごりだ と思いました

一生治りそうにないと思ったけれど 朝が来る頃にはお腹の痛みはほとんどなくなって

マキちゃんはくまの酷い顔にお化粧をして 家を出ました

誰も知らないマキちゃんの戦いを 少し残ったお腹の痛みがほめました

えらいよマキちゃん そのうち元気になるさ

マキちゃんは うるさいなあ と思いました

さっさと消えちまえよ とも思いました

マキちゃんは悪い言葉をよく使いますが

今日はお腹が痛いので許されます

かわいそうなマキちゃんは そのうちお腹の痛みも忘れて ただのマキちゃんになります

ただのマキちゃんは昔のマキちゃんのことを かわいそうだったなあと 泣かずに言えるのです

そんなことはまだ知らないけれど マキちゃんは今日 昨日より少し元気です

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