この女、頭のネジが一本多いにつき。

 女は少々、おバカなくらいが可愛い。

 いまだにそう思っている男性は、多いのではないでしょうか。

 そういう男性がいなくならない限り、頭のネジのゆるんだ女やネジの飛んだ女は淘汰されずに、愛嬌だけを武器に生き残っていくのです。

 わたしは幼い頃から、自分の頭のネジが人より多いことを自覚していました。

 そしてそれは悲しいことに、人より賢くなることには結び付きはしなかったのです。

 わたしの頭の中は常に、一本多いネジのせいでいっぱいでした。

 収まるべきネジ穴のないネジは、あっちへコロコロ、そっちへコロコロ。

 いっそ失くしてしまえば良かったのに、いつでもコロコロやかましく、わたしの思考を占拠するのです。

 

 ネジが一本多い弊害は、いたる所で現われました。

 例えば今日、意中の彼とやっとデートにこぎ着けたこの今も、わたしの邪魔をしています。

 「寧子ちゃんの名前って珍しいよね。ねいこって」

 「丁寧な子に育つようにってことらしいです」

 「はは、そのままだね」

 「はは……」

 ネジが転がりだします。

 褒めてるの?それとも変な名前だと思ってるの?

 もっと気のきいた返しをすべきだった?

 だいたい人の名前の由来を聞いて、そのままだね、って失礼ではないだろうか。

 いやでも実際にそのままだし、正直な感想を述べてくれるこの人は裏表がない人なのかもしれない。

 それって、大事だ。嘘つきは信用できないから。

 いや、でもでも。まだそんなにお互いのことを知らないのだし。

 普通ならとりあえず、素敵だね、とかなんとか言うのではないか。

 つまりこの人はデリカシーのない人?

 そんな人とお付き合いできるかしら。もう遊びの恋愛をする歳ではないから慎重にいかなくちゃ。

 あ、待って。

 もしかしてこの人、そもそも私に興味がないだけなんじゃ。

 今日誘ってくれたのだって、わたしが誘って誘って!なオーラを出してしまっていたからかもしれない。

 もしそうだったらどうしよう。やだやだ、恥ずかしすぎる。もうお嫁にいけない。

 いやもしかして、そんなわたしのことをからかっているという可能性も捨てきれないかも……。

 なんにせよ、そんな事実はわたしのプライドが許しません。

 これは何が何でも、ものにしなくちゃならないようです。

 「寧子ちゃん?聞いてる?」

 「えっ?」

 大変だ、聞いてなかった。この人何を話してたんだろう。

 なんとかマイナスイメージになるようなことは避けなくちゃ。

 むしろ、これをプラスに持っていくくらいじゃなきゃこの戦いには勝てない。

 考えて、考えて、早く!

 「えっと、ごめんなさい。わたしちょっと緊張しちゃって」

 オッケー。まずまずでしょう。危ないところだった。

 わたしが安堵していると、彼はとんでもない台詞を口にしました。
 
 「そっかそっか。それにしても君、可愛いこと言うなあ」

 ビビーッ!危険信号!

 君、可愛いこと言うなあ?この男もれなく女慣れしている模様です。

 チャラ男はダメ、ダメ、絶対に。

 でも万が一、昨日の夜にネットで必死に調べたここぞという時のワードだったらどうする?

 だとしたら可愛いかも。それってすっごく可愛いかも。

 だってこの人、見た目は遊んでるって感じしないもの。

 いやだけど、本当の遊び人はそれを気取られないようにわざと隠すという話も聞いたことあるし……。

 「ねえ、寧子ちゃん、聞いてる……?」

 「えっ?」

 

 振られました。

 「何を考えてるのかわからない」と言われて。

 まだ夕方なのに、家に向かう電車に揺られながらわたしは一本多いネジを恨みました。

 今日はまた、盛大に転がってくれたじゃないの。

 寧子じゃなくて、ネジ子に改名した方がいいかもしれない。

 珍しい名前だね、と言われたら由来はなんて話そう。

 頭の中のネジが一本多くて、困っていたから?

 そんなの、頭の不自由な危ない子だと思われて終わりに違いない。

 「もう考えるのやめよう……」

 疲れ切ったわたしを、いまわしきネジがコロコロと笑っています。

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