水色のパッチンどめ泥棒 

 教室の隅には、忘れ物入れボックスがある。

 廊下や教室で拾った鉛筆のキャップやヘアピン、ビー玉や小銭をいれておく箱だ。

 わたしはある日、その忘れ物入れボックスの中に綺麗な水色のパッチンどめを見つけた。半透明でちょっとラメが入っていて、きらきらしている。

 いいなあ、このパッチンどめ。かわいいなあ。なくした子は誰だろう。こんなに綺麗なのだから、つけていたらすぐ気づきそうなのに見たことないや。

 お菓子箱の中できらきら光るパッチンどめは、あまりにも魅力的すぎた。欲しいなあ。わたしは思わずそれを手に取っていた。

 だめだめ、早く戻さなきゃ。誰かが見てるかもしれないし。でも、欲しい。なくすくらいなんだから、大切じゃないのかもしれない。

「それ、どうしたの」

 突然後ろから声をかけられて、わたしは悪さが見つかった時のように心臓を縮み上がらせた。背中にひゅっと冷たさを感じる。

 声の主は愛美ちゃん。活発でおしゃれで、クラスの中心的な女の子だ。

「これ、忘れ物入れボックスに入ってたの。すっごくかわいいなと思って見てたんだ」

 言い訳みたいに聞こえていないだろうか。愛美ちゃんに泥棒扱いされたら、わたしはこのクラスでおしまいだ。

 愛美ちゃんはしばらくパッチンどめに見入っていた。そして急に「よかったぁ!」とわざとらしいにこにこ顔を作る。

「探してたんだよね!」

 愛美ちゃんはわたしの手からパッチンどめをかすめ取っていった。「よかったね」と、わたしもにこにこを返す。嘘つき、とは言えなかった。

 次の日から愛美ちゃんは、その水色のパッチンどめを着けてきていた。クラスで一番地味な増田さんが、それをいつも目で追っていることに、わたしは気づいてしまった。増田さんが机の下で、まったく同じ水色のパッチンどめをなでていることにも。

 愛美ちゃんは最低だ、泥棒だ。でもあのパッチンどめは、増田さんなんかより愛美ちゃんの方が何倍も似合っている。

 わたしは愛美ちゃんのことが羨ましいと思った。パッチンどめがものすごく似合うことも、あっさりそれを自分の物にしちゃうところも。

 増田さんにちょうだいと頼んだら、もうひとつの方を貰えないだろうか。増田さんよりはわたしの方がクラスでいい位置にいるもの。

 パッチンどめのせいで、わたしは愛美ちゃんより最低な自分を見つけてしまった。

 わたしの視線に気づいた増田さんがこっちをじっと見ている。心を読んでるんじゃないよね、うん、まさか。

 ごめんなさい、増田さん。

 心の中で謝ったら、増田さんの目はまた愛美ちゃんの髪に光るパッチンどめを追いかけ始めた。

 わたしは勝手に、少し許された気分になった。

 

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