新人OLは大人の階段を上る

 こんちきしょう、やけ酒だ。

 アルコールが飲めないわたしでも、まれに酒をあおりたくなる時がある。そしてまさに今日はその時だ。

 部屋に上がるや、鞄を放りだしてコンビニの袋から桃とカルピスの味の缶を取り出して床に置いた。以前は好んで飲んでいた友人達が“女子大生の飲みもの”と急に馬鹿にしだした代物だ。

 いいじゃないか、別にこの前まで女子大生だったんだから。と、ビールのCMなんかで見るようにぐいっとやってみる。甘ったるい味とは裏腹に、胃と喉から甘くない感情が勢いよくあがってきた。 

 彼に長いこと同棲している彼女がいるなんて知らなかった。改めて告白なんかしないのは大人の恋愛だからだと思っていた。

 さっさと桃を空にして、今度はカルピスをぷしゅりとやる。その音に合わせて身体が一気に熱くなりだすのを感じた。

 謝るかと思ったら笑っているなんてありえない。いい歳して新人の女子社員にちょっかいかけるのも本当にありえない。真面目に恋して、浮かれていたわたしの気持ちをどうしてくれる。

 先程よりだいぶ落ちたペースで、これがわたしの義務であるかのようにカルピスを空けていく。

 『次、いつ二人で会おうか』

 帰りがけに彼が言った言葉が繰り返される。

 よく言えたな。クズだ。どうしようもない、クズ男だ。こんなクズ男がまさか実在するとは。

 ようやく空になった二つの缶を蹴っ飛ばして、ふらつく足でベッドにもぐり込む。そして隣の部屋まで筒抜けているだろう、と思いながら大声で泣きわめいた。頭は充分に麻痺していたのに、胸はやっぱり痛かった。

 

 いつの間に寝ていたのか、猛烈な吐き気で目を覚ました。反射的に跳び起きてトイレに駆け込み、便器に顔を突っこむ。飲み慣れていなければ吐き慣れてもいないせいで、かなり苦しむことになった。

 わたしは涙ぐみながら、みじめってまさにこれのこと、なんて考える。同時に多分これまでの人生で一番強く、消えてしまいたいと思った。

 『わたしは、いつでも』

 自分が返した言葉も繰り返される。なんであんなこと言ったんだろう。ふざけるなと横っつらを張ってやるくらいすればよかったのに。

 後悔していると、また吐き気が込み上げてきた。

 明日はもちろん会社だし、行けば彼がいる。だけど休むわけにはいかないし、平気な顔で彼に接しなくてはいけない。

 「……大人って大変だな」

 力なく呟き、わたしは面白くもないのに口の端をゆるめた。

 そして、変な笑い方を覚えちゃったな、と思いながら少し大人になった。

 

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