そこを動くな神様

 神様はいる。絶対にいる。信仰する宗教などないが、あたしはそう確信している。

 あたしが神様を信じる決め手になったのは、友達のアサミが高身長、爽やかイケメン、やり手の若社長とスピード結婚したから。

 あたしに結婚を報告する時アサミは「彼、ITの会社を起ち上げたの」と夢見るお目々をしてほざいていた。

 なーにが、今さらITだって。このインターネット時代、なんでもかんでもITだよ。それでも彼の会社は今のところ上手く行っているらしく、お金に余裕のできたアサミは目に見えて綺麗になっていた。もう幸せですって感じで。

 とりあえずムカついたから、暇さえあればアサミの彼の会社がぶっ潰れてしまうように念じたりもしたけど、全然効果はなし。うーん、やっぱり非生産的か。人間ができているあたしは、やっぱり人の不幸を願うより、喜んで、そして自分の幸せを願うべきだという結論にいたった。

 どうやったら幸せになれるのか。それってあまりにも漠然としている。とりあえず独り身はもうツラい。そろそろ素敵な彼氏が欲しいものだ。アサミみたいに最高の彼が。

 

 さあ、そうと決まればどうしよう。そうだ、手っ取り早くアサミを見習って真似してみたらいいんじゃない?あたしはアサミが素敵な彼を手に入れられた要因を分析してみた。色んな角度から、あれやこれや。それで、最終的に出た答え。アサミには神様が味方したってこと。

 だってアサミは外見はまあ普通だし、根気がないから適当にアルバイトを渡り歩いているような子だったし、性格は面倒くさがりで時間にルーズ、人との約束はすぐ忘れる。料理も洗濯も掃除も嫌い。ただ笑うと憎めないなあって感じ。彼女もそれをわかってるからよく笑う。でもそれだけで努力もなしにあんな彼を捕まえられる?ありえないでしょ。やっぱり神様の仕業だわ。

 そんなわけで、あたしも神様に振り向いて貰うことにした。本当なら全員平等に接しろよ、神様のくせに、と言いたいところだけど。まあ神様も忙しいんでしょうし、仕方ない。

 

 まずは、人として正しくいなきゃね。手始めに困ってる人は助けよう。昨日は後輩が残業してたから、手伝ってあげた。お礼も言われないし、当たり前って顔してたけど。でもあたしは優しいから気にしないよ。神様は優しい人間も好きでしょう?

 あと、自分磨きは大切よね。デパートで評判のいい化粧水と美容液をちょっと背伸びして買った。いつもは躊躇しちゃう化粧品もいくつか。やっぱいいものは違うよね。おかげで今月は毎晩、納豆ごはんになっちゃうけど。納豆も美容にいいからぎりぎりセーフってことにしておこう。

 それから、願うだけじゃなくて自分からも行動しなきゃいけない。合コンなんかじゃなくて自然の出会いがいいもんね。

 この前テレビで、朝活動している人は出来る人が多いって企画をやっていた。それならあたしも朝活するしかない。スタイリッシュなウェアを着てジョギングをして、出勤時間より早めに家を出て、カフェで経済新聞をさりげなく脚を組んで読む。だけど難しすぎるのと寝不足でうとうとしちゃって、今日は遅刻寸前だった。痩せることも期待したけど、全く変わらずだし。

 

 はあ。ぜーんぜん駄目じゃんか。仕事帰りの重い身体を引きずりながら電車に乗り込み、ため息をつく。

 さっさとしてよね、神様。こんなに頑張ってるんだからさあ。ちゃんと見てる?もしかしてさぼってんじゃないの?

 やってらんないわ、とふと顔をあげて窓に映った自分と目が合う。うわっと思った。退社後にちゃんと直したからメイクはバッチリなのに、めちゃくちゃ不機嫌に見えたから。軽々しく近寄ってくんなよ、って顔。ああ、これじゃあ神様も来たくないよなって思った。

 なんだよなあ。神様も所詮、にこにこしてるだけの女の味方なのか。真面目に努力しても、眉間にシワ寄せてる女は嫌いですか。そうですか、駄目ですか。

 少し心が折れかけた。いや、いやいや、このくらいで諦められない。あたしだって幸せになりたいの。

 あたしは気合を入れて、無理やり口角を引き上げてみた。めちゃくちゃぎこちない。嫌になる。あたしの笑顔、気持ち悪すぎ。まあ、これから練習していくからいいよ。なんとかなるよ。

 ああ、あたしってめっちゃ頑張り屋。健気だよ。えらいよ、えらい。

 ふん。今に見てろよ神様め。来る気がないなら、こっちから迎えに行ってやるぞ。だからお願い。逃げちゃ、イヤですよ。

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