瞳子さんの【春うらら/つれない休日】

瞳子さんのつれない休日

 瞳子さんは今日もいらいらしています。

 1か月ぶりに会う彼からなんの連絡もなくすっぽかしをくらったのです。

 瞳子さんは早起きしてはりきって支度をした自分がものすごくみじめに感じました。

 そのまま帰る気にはとてもなれなかったので、始めたばかりのバイトのお給料日もまだでお金もあまりないし、やみくもに歩きまわることにしました。

 街は休日のせいか浮わついたカップルで溢れかえっていたので、瞳子さんが神経をいちいちピリつかせるのは仕方のない事です。

 瞳子さんは彼の普段からの褒めらるものではない素行を思い出して、ひたすら街の中をぐるぐる憤慨しながら歩きに歩きました。

 さすがに疲れて、お腹が減った瞳子さんは目についたどこにでもあるチェーンのラーメン屋に入り、迷わずに大盛りを注文。

 勢いに任せてがつがつとラーメンをかっ込み、さっさと店を後にしました。

 胸やけを感じながら少しゆっくり歩いていると、すれ違う人が瞳子さんをじろじろ見てきます。

 ラーメンのせいでとんでもなく化粧が崩れてるのかしら。

 瞳子さんが急いでトイレを見つけ確認すると、お気に入りのまっ白なワンピースに、濃厚(どっろどろのぎっとぎと)を謳ったとんこつラーメンのスープが盛大に飛び散っていたのです。小学校にあがる前の子どもだってもう少しましに食べれるのではないでしょうか。

 まあ、いいや。どうせ。

 瞳子さんは自虐的になって鏡に映る情けない自分を笑いました。

 ひさしぶりのデートに何時間たっても来ないうえに、連絡もつかない男なんてもうお別れだ。それがいい、もう決めた。

 瞳子さんは、やけを起こし少しハイになっています。

 そうだ。今、この瞬間にこちらから別れを切りだしてやろう。

 意気込んだ瞳子さんが携帯電話を取り出すとタイミングの悪いことに、彼が待ち合わせ場所に向かっている途中だと言うメールがつい先ほど届いていました。

 ごめんの一言もないなんて、いったいまったくどういう神経だろう。

 この男の甲斐性のなさには、怒りを通りこしてあきれてしまいます。

 30秒ほど本気で悩んだ結果、思い付く限りの暴言をぶつぶつ呟きながら瞳子さんは待ち合わせ場所に戻ることに決めました。

 途中でごまかしようのないしみのついたワンピースの事を思い出しましたが、このくらいでちょうどいい男に会いにいくので構わないでしょう。

 暮れていく日を横目に歩きながら、瞳子さんは少しだけ泣いてみるのでした。

 

瞳子さんの春うらら

 瞳子さんはいらいらしています。

 春のさわやかな最高に素晴らしい天気にすら、いらいらせずにはいられません。

 瞳子さんはもともと短気な質ではありましたが、このところそれがますます目立つようになっているのです。

 瞳子さんには女優になるという大きな夢がありますが、まあよくある事ですがまったくといっていいほどうまくいっていません。

 それだけでも充分いらいらの種なのに、まともに連絡もしてこない5つ年上の彼のせいだったり、友達のどうでもいい愚痴にみせかけた自慢だったり(会社のそこそこイケメンの上司がちょっかいかけてきて困っちゃう、彼もいるしそんな気ないのにさあ。そういえば彼といえば束縛が激しくってえ。とか)、いいかげん地元に戻ってきて家業のぶどう農園を手伝えとうるさい田舎の両親だったりと、まわりの人間たちが揃いも揃って瞳子さんのいらいらを加速させてくるのです。

 そして最近、さらに瞳子さんを苦しめる人間が現れたのです。

 高時給につられて始めた受付のアルバイトの七子という社員が、どうしようもない。本当にどうしようもないのです。

 この前なんて遅刻をした上に食べ過ぎてなーんかやる気がでない、とかいう理由で入って数日の瞳子さんを置いてお昼休みまでどこかに行ってしまうという事もありました。

 その人と瞳子さんの2人だけだというのに、責任感が無さすぎます。

 今日はこんなに天気がいいから、そのダメ社員は散歩がしたいなどと言い出すに違いありません。

 瞳子さんはため息をついて空をあおぎました。

 そして雲ひとつないそらが眩しくて、舌打ちをしてやりました。

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